2008年12月10日水曜日

ピープルウエア

ソフトウェア開発に従事している人なら、この本は間違いなく面白い。読み物として楽しいのでスラスラ読めてしまう。

第1部 人材を活用する
「25人年以上を注ぎ込んだプロジェクトのうち…25%が完成しなかった」(p3)
原因の多くは技術的問題でなくプロジェクトの社会学、人に関する問題であるとし、本書のテーマとなっている。

「頭脳労働者が時々ミスを犯すのは極めて自然で…少々の間違いを大目に見ることだ」(p7)
間違いを許さない雰囲気が社内にあると、担当者は消極的になり、失敗しそうなことには絶対に手を出さなくなる。

スペイン流管理(p15)
この世には二つの価値観があり、一つはスペイン流の考え方で地球上には一定の価値しかないので植民地などから搾取する。もう一方は価値は発明の才能と技術で創造するもの。
ソフトウェア開発はイギリス流であるべきだが管理者は往々にしてスペイン流の価値観を持っている場合がある。
→1時間あたりの賃金からどれだけ多く搾り取れるか?スペイン流の管理ではサービス残業させたほうが見かけの生産性があがる。

「部下をできるだけ長く働かせ、納期を守ることがどんなに大切かを部下の頭に叩き込む」
「残業代がつかないサラリーマンに残業をさせることは、おろかな管理者が考え付きそうな幻想だ」
などとバッサリ。部下はバランスをとるため無業の時間が増えるので最終的には生産性は上がらない。

生産性と退職の関係(p20)
スペイン流の管理で生産性をあげても退職されると高い犠牲を払うことになる。退職コストは高い。日本では退職率がアメリカほど高くないので状況が異なるかもしれない。

品質
「大抵の人は自尊心を自分の作った製品の品質と強く結びつける傾向がある」(p23)
開発者は「厳しい納期に間に合わせるには、作業場の制限が多すぎる。納期通りに完成するために、プロジェクト資源をやりくりする自由もない。例えば、もっと人を投入するか、実現する機能を削るかという選択権がない。犠牲にできる唯一のものは品質である。」

→管理者は品質を犠牲にして納期を優先させようとする。

開発者を満足させる品質基準は、マーケットが望む品質よりずっと高い。「マーケットは品質なんか気にしない」
→開発者は品質を犠牲にしはじめる。

「ユーザーは、開発者に比べると、製品品質を必要とするレベルが低い…低品質によって市場浸透力が低下した分は、製品の売り上げ上昇分が補って余りある」(p26)

つまり市場の求める品質基準まで下がってしまう。これを「「品質第一主義からの逃避」と呼ぶ。」とのこと。

しかし、本書では次の教訓を示している。
「エンドユーザーの要求をはるかに超えた品質基準は、生産性を上げる一つの手段である」

「価値と品質はトレードオフの関係にあるという考えは、日本には存在しない…」
日本の論文から引用している。本当にそうなのだろうか。確かめるために論文を読んでみたいものです。

「管理者の役割は、人を働かせることにあるのではなくて、人を働く気にさせることである」

第2部 オフィス環境と生産性
プログラマーの個人差
プログラミングコンテストのデータを分析した結果。
「最優秀者の測定値は、最低者の約10倍である」
「最優秀者の測定値は、平均的作業者の役2.5倍である」
「上位半分の平均測定値は、下位半分の平均の2倍以上である」
関連した予見、
「企業におけるプログラマーの能力差は10倍であるといわれている。しかし、企業自体の生産性にも10倍の開きがある」

1人による作業30%、2人による作業50%、3人以上による作業20%
70%は騒音を出す側
騒音、割り込みはプログラマーの生産性を低下させる。

オフィス環境を測るために、環境変数というものを導入していておもしろい。
E係数=割り込みなしの時間数/机の前に座っていた時間

音楽を聴きながらの生産性の実験
音楽を聴きながら作業すると、作業自体は進むが創造性やヒラメキが低下する結果になる。

有機的秩序
長い年月をかけてゆっくりと出来上がった村落のようなもの。
作業空間はすぐに完成しない。建築学のパターンを使うなど。

第3部 人材をそろえる
管理者は最初に人材をそろえることが最も重要
優れた人材を選ぶ能力

エントロピーは組織内では常に増加する
平準化が進みエネルギーや仕事を生み出す可能性が減る

退職の隠されたコスト(p138)
従業員の退職は、目に見える部分だけで全人件費の20%のコストを費やす。

会社が個人自己形成に投資をすれば、従業員は、長く勤めることが期待されているという雰囲気を決して見逃さない。

ホーソン効果(p156)
「人はなにか新しいことをやろうとしたとき、それをよりよくやろうとする。」
生産性向上はホーソン効果によるところがある。

第4部 生産性の高いチームを育てる
「チーム編成の目的は、目標の達成ではなく、目標に向かって一体になることである。」
このようなチームの特徴は、退職率の低さ、アイデンティティ感覚、選ばれたものとしての感覚、生産物共有意識、明らかな楽しさ、とのこと。

チーム殺し(p172)
チーム形成を崩壊させる方策を逆説的に紹介している。
*自己防衛的な姿勢
部下の無能力から自分を守る。チームが結束するために部下を信頼すること。

*品質低減製品
製品を短時間で出荷するやり方は低品質になり、開発の誇りを失う

スカンクワーク
経営者が中止したプロジェクトを従業員が正しい判断で無視。部下は管理者が裃を脱ぐことを期待。自己防衛的な管理者は孤立する。

「優れたチームでは、~時に応じてリーダーシップを発揮し、誰もが恒久的なリーダーではない」
異分子が少し入っていると、結束したチームを作るのに大きな助けとなる。ハンデキャップや学生など。

第5部 きっとそこは楽しいところ
ブレーンストーミング、研修、旅行、学会、お祭り、冒険体験

「施設監査本部を見方にし、企業エントロピーと闘い、チーム殺し的な傾向を打破し、製品の品質をもっと重視し、パーキンソンの法則を無効にし、形式ばった作業規定をゆるめ、E係数を改善し、裃を脱ぐ」

第6部 ピープルウェアの小さな続編
第2版の追加分。
同僚の激しい競争は、仲間同士のコーチングを犠牲にする。
コーチングという行為は、自分たちが安全であると感じなければ、明らかに怒りえない。

CMM
順序づけられたキープロセスエリア(KPA)におけるスキルの熟達の度合いに基づいて5つのレベルに格付けされる。本書は否定的。
真に利益をもたらすプロジェクトは真のリスクを伴う。CMMを正当化する理由は、品質と生産性の向上にくわえ、リスクを低減すること。

人的資産(p261)
経費:使ってしまったお金
投資:資産を買うための別の資産
会社が社員に使うお金は経費で投資ではないが、投資と考えるべき。人員整理で給与と経費は削減できるが、人員に投下した投資分は失う。
「企業活動の目的は規模拡大であり、縮小ではない(p267)」。市場はリストラを歓迎するが、それは人への投資は経費の一部と考えているため。

組織学習
組織が学習能力をもてるかは、どこでやるかが重要。経営者は日々の業務を見ていない。末端は規則に縛られている。中間管理層の強力なリーダーシップが必要。

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